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ニューインデックス株式会社 鈴木敏成 2010年05月17日 14時48分 更新


[株式会社アイ・ティ・アール]アナリスト・コラム(第2回):オバマ政権を裏で支えるクラウドとは?―50%以上のコスト削減を実現した超巨大システム

本コラムの第1回で「クラウド・コンピューティングが企業ITにどのような価値をもたらすのか」と書きました。今回は、クラウド・コンピューティングを採用することによって、大幅なコスト削減を達成した事例をご紹介します。

米国電子政府におけるクラウド・コンピューティング活用事例

下図は米国政府が推進する電子政府サービスのポータルサイトである「USA.gov」です。年間訪問者数が1億人以上、保管文書数が5,000万件以上という巨大なWebサイトです。米国市民や米国籍企業は、このサイト上で、税申告書、自動車免許更新方法、交付金受領フォーム、自然災害情報などを受け取ることができます。このサイトが立ち上がった当初は、月1回の米国雇用統計の発表直後やハリケーンなどの大規模災害発生時のような大きな出来事があるたびに集中的なアクセスが発生し、サーバーがダウンする事態に何度も見舞われました。USA.govの主導者である連邦調達庁(General Services Administration: GSA)は、この集中的なアクセスに耐えられるよう、大規模なブレード・サーバー・システムを導入しました。しかし、このサーバーの最高能力を発揮する時間は非常に少なく、全体としてはサーバー利用効率が非常に低いこと、増え続けるアクセス数に対応するためにサーバーの増強・増設を継続する必要があること、効率の低いシステムが電力を無駄使いしていることは政府機関としては望ましくないこと、などの理由により、クラウド・コンピューティングを検討することにしました。

クラウド・コンピューティング検討時のGSAの主要要求は次のようなものでした。
・予測不可能な大きなアクセス負荷に、迅速かつ柔軟に対応可能で、その運用費用は最小限であること
・テストおよび移行のための期間が短いこと
・GSAのセキュリティ要求に対応していること(下記リストは要求の一部)
 (1)マルチファクター認証
   (Multi-Factor Authentication: MFA。指紋とICカードとパスワードのように、性質が異なる複数の手法を用いた認証のこと)
 (2)PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard。
   クレジットカードデータの取り扱い、処理、格納、転送に関する共通のプロセスと予防措置を定めた、広範なセキュリティ基準)
 (3)HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act。医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)
 (4)リソース・トラッキング
 (5)パケットフロー分析

USA.gov
出典:アイ・ティ・アール

クラウド・コンピューティングにより50%以上のコスト削減を実現

GSAは米国のホスティング事業者であるTerremark Worldwide Inc.(以下、Terremark)のミッション・クリティカル・システム向けのセルフサービス型IaaSである「Enterprise Cloud」を採用しました。これは、Amazon Web Servicesのように、CPU、ストレージ、メモリ、ネットワークのリソースプールを購入するタイプのサービスです。12ヵ月間のベースライン型契約という、実際に利用したリソースがベースラインを上回らない限り契約費用だけを支払えばよい形態を採用しました。この契約の場合、通常の短期間契約よりも費用を抑えることができます。また、ベースラインを超えた負荷が発生した場合は、迅速かつ柔軟にリソースを拡大することができ、ベースラインを超えたリソース量に応じた追加費用を払うだけで良いのです。GSAは、Enterprise Cloudに移行したことにより、従来に比べて50%以上のコスト削減を実現したとしています。

また、従来システムはVMwareの仮想環境を採用しており、Enterprise CloudもVMwareを採用していたため、テストを含めた移行期間は10日でした。Terremarkは、バージニア州のCulpeper市に国防省のセキュリティ要求にも対応できるデータセンターを所有しており、前記要求をすべてクリアしています。

Enterprise Cloudは、Terremarkの仮想サーバー・プラットフォームである「Infinistructure」上で稼働しています(下図)。これは、250コアの64ビットCPUアレイを備え、負荷分散機能をもつギガビット・ネットワーク、仮想ファイアーウォール、光ファイバーでiSCSI接続された総容量35テラバイトのストレージで構成されています。


Enterprise Cloud
出典:アイ・ティ・アール

オバマ政権の「開かれた政府」への展開

このように、USA.govに対するクラウド・コンピューティングの適用は成功裏に終わりました。そして、GSAは、米国連邦政府の様々な機関が扱う情報・データを入手できるサイト「DATA.gov」(下図)もEnterprise Cloud上で運用しています。これは、オバマ政権がかかげる「開かれた政府」の方針に沿ったWebサイトであり、生データ、分析ツール、地域別データを提供し、国民が自由にデータ加工や分析が出来ます。オバマ大統領の主要政策の1つである「開かれた政府」も、クラウド・コンピューティングがなければ実現できなかったかもしれません。


オバマ政権の「開かれた政府」への展開
出典:アイ・ティ・アール


[株式会社アイ・ティ・アール]アナリスト・コラム(第1回):クラウドの定義は重要か?

[株式会社アイ・ティ・アール]アナリスト・コラム(第3回):国内におけるクラウド・コンピューティングの認知度と利用状況 へ続く

プロフィール

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甲元宏明
株式会社アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト

前職では情報部門でSCM・CRMなどのシステム開発、MPLS・VoIPなどのWAN構築、IT戦略立案を主導。その後、欧州企業との合弁企業においてグローバルITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施した。2007年より現職。担当は、ITアーキテク チャー・開発方法論・クラウドコンピューティング・ネットワーク・CRMほか。